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【助産師解説】妊娠中からはじめる母乳育児の準備“乳頭マッサージ”の正しいやり方

【助産師解説】妊娠中からはじめる母乳育児の準備“乳頭マッサージ”の正しいやり方

2025/12/20(Sat)

【助産師解説】妊娠中からはじめる母乳育児の準備“乳頭マッサージ”の正しいやり方

「母乳で育てたいな」と考えている妊婦さんにとって、妊娠中からできる準備の一つが“乳頭マッサージ”です。 スムーズな母乳育児のスタートのために、なぜ乳頭マッサージが推奨されるのか、そして安全で効果的なマッサージのやり方を、産婦人科の視点から詳しく解説します。 なぜ乳頭マッサージをするの?母乳育児の準備をはじめよう 赤ちゃんが生まれてすぐにおっぱいを吸ってくれることは、ママにとっても赤ちゃんにとっても、たくさんのメリットがあります。

母乳育児のメリット

  • 免疫力アップ:ママの持つ免疫物質が母乳を通じて赤ちゃんに届き、病気から守ります。
  • 理想的な栄養:消化・吸収が良く、栄養バランスも赤ちゃんにとって最適です。
  • 産後の回復を助ける:おっぱいを吸われる刺激(オキシトシンというホルモン)で、産後の子宮の回復が促されます。
  • 親子の絆を深める:肌と肌が触れ合う授乳の時間は、親子の愛着形成に繋がります。

乳頭マッサージには以下のような目的があります。

  1. 乳頭を柔らかくし、赤ちゃんが吸いやすい状態にする
  2. 母乳の出口である乳管の開通を促す
  3. 乳頭への刺激に慣れ、産後の乳首トラブル(切れなど)を防ぐ

妊娠中からケアを始めることで、産後の授乳がよりスムーズになります。

準備編:いつから?注意点は?

マッサージを始める前に、大切なポイントを確認しましょう。

いつから始める?

体調が安定していれば、妊娠28週(妊娠後期)ごろから始めることができます。しかし、子宮の収縮を誘発することがあるため、体調をみながら行いましょう。妊娠35〜36週頃から始めるとより安心です。

どのくらいの頻度で?

毎日続けることが理想ですが、無理のない範囲で構いません。1回5分程度を目安に、リラックスできる時間に行いましょう。血行が良くなっている入浴後が特におすすめです。

【最重要】必ず守ってほしい注意点

乳頭への刺激は、子宮収縮を促すホルモン「オキシトシン」の分泌を促します。そのため、お腹の張りを引き起こす可能性があります。

以下の場合は、絶対にマッサージを行わないでください

  • お腹の張りや痛みを感じるとき
  • 出血があるとき
  • 医師から切迫早産の診断を受けている、またはそのリスクを指摘されている場合
  • 帝王切開で出産予定の方(妊娠中は行わないでください)

上記に当てはまる方は、自己判断でマッサージを開始せず、必ずかかりつけの産婦人科医師や助産師に相談し、許可を得てから(多くは妊娠37週以降)行うようにしてください。

マッサージの途中でお腹が張ってきた場合も、すぐに中断して休みましょう。

実践編:乳頭マッサージの具体的な方法

清潔な手で行いましょう。オイルやクリームを使うと、肌への摩擦が減り、保湿もできるのでおすすめです(植物性のオイルなどが良いでしょう)。

【基本の3ステップ】

ステップ1:乳輪部をやわらかくする

  1. 親指と人差し指で乳輪(乳頭の周りの茶色い部分)のフチを挟むように持ちます。
  2. そのまま少し内側に寄せるように、優しく圧迫します。場所を少しずつずらしながら、乳輪全体をまんべんなくほぐしましょう。

ステップ2:乳頭をつまんで圧迫する

  1. 片手で乳房を支えます。
  2. もう片方の親指、人差し指、中指の3本の指の腹で、乳頭を根元から優しくつまみます。
  3. そのまま乳頭の先端方向にむかって、5~10秒かけてゆっくりと圧迫します。(母乳のしずくを絞り出すようなイメージですが、無理に出す必要はありません)
  4. 指の位置を縦・横・斜めと少しずつ変えながら、数回繰り返します。

※痛みを感じるほど強く行う必要はありません。痛みの感じ方は個人差があるため、痛みを感じない力加減で行いましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 扁平乳頭・陥没乳頭にもマッサージは効果がありますか?

A. はい、効果は期待できます。丁寧に乳頭のケアを行うことで、乳頭が引き出され、赤ちゃんが吸いやすくなることがあります。ただし、自己判断で強く引っ張ったりせず、まずは助産師に相談し、あなたに合ったケア方法の指導を受けることをお勧めします。専用の保護器を使用する場合もあります。


Q. オイルやクリームは使った方がいいですか?

A. はい、使用することをおすすめします。乾燥した状態でのマッサージは、皮膚を傷つける原因になります。会陰マッサージと同様に、スイートアーモンドオイルなどの植物性オイルや、馬油、ラノリンクリームなど、保湿効果の高いものを使いましょう。


Q. マッサージ中に黄色い分泌物が出てきました。

A. それは「初乳」の可能性があります。妊娠中から少量分泌されることは珍しくないので、心配いりません。清潔なコットンやティッシュペーパーなどで優しく拭き取ってください。


Q. 妊娠中の乳頭マッサージ中、なんだか気分が落ち込んだり、ソワソワしたりして不快です。

A. もしかすると「D-MER(ディーマー:不快性射乳反射)」という生理的な反射のサインかもしれません。乳頭が刺激され、母乳を出すホルモンが働く瞬間に、一時的に不安感や焦りを感じる現象です。

これはホルモンの影響によるもので、あなたの気持ちや考え方とは関係ありません。「自分は母親に向いていないのでは…」などとご自身を責める必要は全くありませんので、安心してください。

もし不快感が強くて辛い場合は、無理に行わず、助産師や医師に相談してください。

まとめ

  • 乳頭マッサージは、母乳育児のための大切な準備です。
  • 妊娠28週ごろから始められますが、お腹の張りが心配な方は37週以降にしましょう。
  • お腹の張りや痛み、出血がある時は絶対に行わないでください。
  • 「ほぐす→乳輪→乳頭」のステップで、優しく痛みのない程度の力加減で行いましょう。
  • 扁平・陥没乳頭など、心配なことがある場合は一人で悩まず、助産師に相談してください。

乳頭マッサージは、ご自身の体と向き合い、これから始まる赤ちゃんとの生活に思いを馳せる良い機会にもなります。リラックスしながら、ご自身のペースでケアを始めてみましょう。