
【医師解説】つわりの原因とピークは?食事の工夫と受診の目安「妊娠悪阻」について
妊娠の嬉しいサインとともにやってくる、辛い「つわり」。 経験した人にしか分からないその辛さは、時に心を滅入らせ、終わりが見えないように感じてしまうこともありますよね。 でも、安心してください。つわりはほとんどの妊婦さんが経験する自然な過程であり、必ず終わりが来ます。 この記事では、つわりの時期や症状、少しでも楽に乗り切るための工夫、そして「妊娠悪阻(おそ)」という受診が必要な状態について、詳しく解説します。
つわりの基本:なぜ起こるの?いつまで続く?
つわりの原因
つわりの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、主に妊娠によって分泌されるホルモン「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」が急激に増えることが影響していると考えられています。
このホルモンは、妊娠を維持するために不可欠なもの。つまり、つわりは赤ちゃんがすくすく育っている証拠とも言えるのです。
時期とピーク
一般的に、つわりは妊娠5〜6週ごろから始まり、胎盤が完成に近づく妊娠16週ごろまでに自然と落ち着く方がほとんどです。症状のピークは妊娠8〜10週ごろに迎えることが多いでしょう。
症状は人それぞれ
つわりの症状は、まさに十人十色。代表的なタイプには以下のようなものがあります。
- 吐きつわり:常にムカムカし、吐き気や嘔吐がある。
- 食べつわり:空腹になると気持ち悪くなるため、何かを常に口にしていないと辛い。
- においつわり:ご飯の炊ける匂いや芳香剤など、特定の匂いで気分が悪くなる。
- よだれつわり:自分の唾液が不快に感じたり、量が増えたりする。
- 眠りつわり:とにかく一日中眠い、強い倦怠感がある。
これらの症状がいくつか重なって現れることも珍しくありません。
辛いつわりを乗り切るための8つの工夫
この時期は、栄養バランスを厳密に考える必要はありません。まずは「食べられるものを、食べられる時に、食べられるだけ」を合言葉に、以下の工夫を試してみてください。
食事の工夫
- ちょこちょこ食べを心がける:空腹も満腹も吐き気を誘います。食事の回数を増やし、一度に食べる量を減らしてみましょう。
- 枕元に軽食を置く:朝起きた時の空腹(血糖値の低下)で気分が悪くなることが多いです。すぐに口にできるクラッカーやグミなどを置いておきましょう。
- 冷たいものを選ぶ:温かい食事は湯気で匂いが立ちやすいです。そうめん、冷奴、サンドイッチ、ゼリーなど、冷たくて喉越しの良いものなら食べやすいことも。
- 水分補給を最優先に:食事よりも水分補給が大切です。脱水を予防するために経口補水液がおすすめです。もし味や匂いで飲みにくい時は、麦茶、氷、炭酸水、果物など、口にできるもので水分を摂りましょう。

生活の工夫
- とにかく休む:睡眠不足や疲れは、つわりを悪化させます。眠い時は我慢せず、体を休ませてあげてください。
- 不快な「におい」から避難する:マスクをしたり、窓を開けて換気したり、家族に調理を代わってもらったりして、苦手な匂いを避けましょう。
- 締め付けのない服装を:体を締め付ける服は気分を悪化させることがあります。ゆったりとしたワンピースやマタニティウェアで楽に過ごしましょう。
- 気分転換を見つける:体調が良い時に少し散歩をしたり、好きな音楽を聴いたり、動画を見たりして、辛さから意識をそらす時間も大切です。
「妊娠悪阻(にんしんおそ)」- 我慢せずに受診が必要なケース
つわりが悪化し、日常生活に支障をきたす状態を「妊娠悪阻(おそ)」といい、医学的な治療が必要になります。
「みんな我慢しているから…」と耐えすぎる必要はありません。以下のサインが見られたら、脱水や栄養不足に陥っている可能性があるため、必ず病院に連絡し、受診してください。
- 1日に何度も嘔吐し、水分もほとんど摂れない
- めまいがして、一人で立っているのが辛い
- 妊娠前から体重が5%以上減少した(例:50kgの人なら2.5kg以上の減少)
- おしっこの回数が極端に減り、色が濃くなった
病院では、主に点滴による水分やビタミンの補給を行います。点滴治療で心身ともに楽になる妊婦さんは大勢います。お母さんと赤ちゃんの健康のために、我慢せずかかりつけの産婦人科を受診してくださいね。
パートナーやご家族の方へ
つわりの辛さは、外見からは分かりにくく、精神的なものだと誤解されがちです。しかし、つわりはホルモンの影響による、紛れもない身体的な不調です。
どうか一番近くで、妊婦さんの辛さに理解を示し、サポートしてあげてください。家事を代わってあげる、匂いの強いものを避ける、ただ話を聞いてあげるだけでも、妊婦さんの心は大きく救われます。

まとめ
- つわりは赤ちゃんが元気に育っている証拠。多くは妊娠16週ごろまでに落ち着きます。
- 栄養バランスは気にしすぎず、「食べられるものを食べられるだけ」で大丈夫。水分補給を最優先に。
- 十分な休息が何よりの薬です。
- 水分が摂れない、体重が大きく減るなど、症状が重い場合は治療が必要な「妊娠悪阻」かもしれません。我慢せずに病院へ相談してください。
辛い時期ではありますが、このトンネルには必ず出口があります。一人で抱え込まず、ご家族や私たち医療スタッフを頼りながら、この大切な時期を乗り越えていきましょう。
【監修】
医療法人育愛会 愛産婦人科
院長 菅原 正樹
札幌市手稲区の産婦人科 医療法人育愛会 愛産婦人科 院長の菅原です。 私たちは、女性のあらゆるライフステージに寄り添い、一人ひとりのお悩みに応える医療を大切にしています。つわりの辛さや妊娠中の不安など、どんなことでもお気軽にご相談ください。





